シリーズ | 日本語教育学の新潮流 31 |
書名 | 現象学的日本語教育の可能性 アイルランドで複言語育児を実践する親たちの事例 |
編著者 | 稲垣みどり 著 |
定価 | 3,960円(税込) |
ISBN | 978-4-86676-054-4 |
発行日 | 2022年2月28日刊行 |
その他 | A5判 上製 248頁 |
紹介文
日本語教育研究において多く採用されている質的研究に、現象学の原理を導入し、新たな地平を拓こうと試みる意欲作。筆者自身が当事者として関わったアイルランドにおける複言語育児に焦点を当て、「移動する親」へのライフストーリーインタビューを行っている。その調査・研究から複言語育児の本質に迫るのみならず、アイルランドで複言語育児を行う親たちを対象に、現象学の方法を取り入れた「本質観取」のワークショップを実践することで、親/子どもたちへの支援につなげようとしている点にも意義があるだろう。
目次
はじめに
第1章 本書の目的と問題の所在
1 問題の背景
1.1 移動する人々の「育児」の課題
1.2 日本語教育の文脈で「移動する親」の意味世界を論じる必要性
1.3 「移動する親」たちの形成する言葉の学びのコミュニティ
2 本書の理論的枠組み
2.1 「移動する親」と「子ども」、そして「育児」
2.2 「複言語育児」の定義
2.3 現象学的思考の枠組みと「本質観取」
3 問題の所在
3.1 「共通了解の成立」を目指すための「本質観取」
3.2 本書の目的と課題の設定
4 本書の構成
第2章 複数言語環境で生きる子どもと親は、日本語教育の文脈でどのように議論されてきたか
1 日本国内の「年少者日本語教育」研究の射程―学校教育文脈のみで子どもを見ることの限界
2 「移動する子ども」研究の射程―子どもの「言語能力」をどのように捉えるか
3 年少者日本語教育研究、「移動する子ども」に足りない視点は何か―子どもにとって必要な「ことばの力」を想定するのは誰なのか
4 複数言語環境で生きる親と子を捉える視点
4.1 多文化共生と「地域日本語教育」における「定住外国人」の育児
4.2 日本語教育における「パターナリズム」
4.3 海外の「継承日本語教育」における「パターナリズム」と「日本語ナショナリズム」
4.4 「継承日本語教育」における「パターナリズム」を乗り越える視点
4.5 日本語モノリンガル視点から生まれる「パターナリズム」と「日本語ナショナリズム」
5 「移動する親」の意味世界に注目する理由―本書のリサーチクエスチョン
5.1 自由意志による移動者―「ライフスタイル移民」
5.2 「育児」の包摂する射程
5.2.1 子どもを取り巻く相互補完的な文脈としての「育児」と「学校」、「地域社会」
5.2.2 「親」と「子」の相互主体的な実践である「育児」
5.2.3 本書のリサーチクエスチョン
第3章 質的研究における現象学の可能性
1 日本語教育学における質的研究
2 質的研究における現象学の原理
2.1 現象学とは何か
2.2 フッサール現象学における「認識の謎」の解明
2.3 本質観取の規定
2.4 日本語教育学における現象学の可能性
3 質的研究における現象学の可能性
3.1 質的研究における現象学
3.2 日本語教育学における質的研究
4 日本語教育は何を目指すか―日本語教育の「意味」と「価値」をめぐる言説
第4章 「複言語育児」の分析概念
1 言語実践としての「育児」
1.1 言語実践としての「育児」―「言語ゲーム」理論における「親の役割」
1.2 ヴィトゲンシュタインの言語ゲーム理論における言語観
1.3 「母(養育者)と子の始発的言語ゲーム」―竹田青嗣の「欲望論」哲学
1.3.1 竹田青嗣の「欲望論」における言語ゲーム理論
1.3.2 「欲望論」における「母(養育者)と子の始発的言語ゲーム」
1.4 言語環境を創出する親 「言語ゲーム」に子どもを巻き込んでいく親
2 社会文化実践としての「育児」
2.1 コミュニティへの「導かれた参加」としての育児
2.2 「移動する親」の果たす役割―移動のエイジェンシーとしての親
2.3 「育児」と「育児戦略」
3 言語実践としての、社会文化実践としての「育児」における「親」の役割
3.1 子どもの教育機関と教育言語を決定するエイジェンシーとしての親
3.2 教育制度の中で子どもの言語習得を見ることの限界
3.3 「複言語育児」と複言語複文化主義
3.3.1 欧州評議会の言語教育政策―CEFR における複言語複文化主義について
3.3.2 CEFR における複言語複文化能力とは
3.4 「複言語育児」の定義
3.5 「複言語育児」の射程―世界の「複言語育児」、なぜアイルランドか
3.5.1 日本国内の「複言語育児」の射程
3.5.2 日本国外の「複言語育児」の射程
3.5.3 なぜ、アイルランドか
3.5.4 「複言語育児」の対概念としての「単言語育児」はあり得るか
4 本書の視座―「複言語育児」という視座
第5章 アイルランド在住の親たちの「複言語育児」
1 アイルランドを調査フィールドとした経緯
2 調査の目的
3 本調査の概要
3.1 調査フィールドの概要― アイルランドにおける「複言語育児」を取り巻く文脈
3.2 アイルランド言語教育政策―アイルランドの言語教育の現状認識および課題
3.2.1 アイルランド言語教育政策プロファイル
3.2.2 アイルランドの言語教育の特異性―アイルランド語教育の位置付け
3.2.3 新たなアイルランドの言語教育政策
3.2.4 アイルランドの学校教育における外国語教育の動向と日本語教育
3.2.5 ポスト・プライマリー・ランゲージイニシアティブ(Post-Primary Languages Initiative, PPLI)における日本語の導入
3.2.6 リービングサート試験における日本語のレベル
3.3 アイルランドにおける「日本の学校」―全日制日本人学校と補習校
3.3.1 アイルランドにおける在外教育機関―全日制日本人学校
3.3.2 ダブリン日本子女補習校
3.3.3 「新しい学校」としての「アイルランド日本語補習校」の開校
3.4 調査の手続き
3.5 調査の方法―ライフストーリー法と現象学
3.5.1 なぜ「ライフストーリー」なのか
4 調査の概要
4.1 調査の概要
4.2 各調査の概要
4.3 本書で使用したデータの調査協力者のプロフィール
4.4 分析方法
5 Aさんの「複言語育児」の意味世界
5.1 Aさんのプロフィール
5.2 Aさんの「複言語育児」―イマージョン教育を重視した「複言語育児」
6 Bさんの「複言語育児」の意味世界
6.1 Bさんのプロフィール
6.2 Bさんの複言語育児― 「どこででも生きていける力」を目指す育児
7 Cさんの「複言語育児」の意味世界
7.1 Cさんのプロフィール
7.2 Cさんの「複言語育児」―子の成長に伴って「シフトチェンジ」する育児
8 本章のまとめ
第6章 「移動する親」が「複言語育児」において目指す「言葉の力」とは何か
1 はじめに
2 「複言語育児」の意味世界と実践(1)
2.1 移動のエイジェンシーとしての親
2.2 「アイルランド>日本」の世界観
2.3 子どもの教育機関と教育言語を決定するエイジェンシーとしての親―アイルランドの教育>日本の教育という世界観
2.4 本節のまとめ
3 「複言語育児」の意味世界と実践(2)
3.1 言語環境を創出する親―「言語ゲーム」に子どもを巻き込んでいく親
3.2 在留邦人の親たちは「複言語育児」を通して子どもにどんな力を身につけてほしいのか
3.3 本節のまとめ
4 「移動する親」が「複言語育児」において目指す「言葉の力」とは何か
5 本章のまとめ
第7章 「日本語教育の専門家」は何ができるか―「複言語育児」の視座が示唆する 実践への提言
1 親への支援の実践案
2 アイルランドで複言語育児を実践する母親たちへの「本質観取」ワークショップ実践
3 1回目のワークショップの概要
3.1 ワークショップの目的
3.2 ワークショップの日時、場所
3.3 参加者のプロフィール
3.4 ワークショップの流れ
3.5 ワークショップの経過
3.6 ワークショップの結果
3.6.1 「子育て」とは何か
3.6.2 「我が子に日本語を通じて身につけてほしい言葉の力」とは何か
4 第2回目の本質観取ワークショップ
4.1 第2回ワークショップの概要
4.2 参加者のプロフィール
4.3 第2回ワークショップの手順
4.4 第2回ワークショップの経過
4.5 ワークショップの結果
4.6 第2回ワークショップのまとめ
5 二つのワークショップのまとめ
5.1 「言葉の力」の内実
5.2 ワークショップその後
第8章 共通了解の成立を目指す日本語教育の提言
1 「複言語」の視点に立つこと―モノリンガル的な視点からの脱却
1.1 日本国内の「多文化共生」の議論との重なり
1.2 日本語モノリンガル的な視点から複言語的視点へ
2 「複言語育児」の日本語教育学における位置づけ―共通了解の成立を目指す日本語教育への提言
2.1 「複言語育児」の「意味世界」を本質観取する意味
2.2 「欲望論」の哲学原理と言語ゲーム
2.3 信念対立を乗り越えるための共通了解の成立を目指す対話
3 今後の課題
おわりに
あとがき
参考文献
索引
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